大腸癌は非常に遺伝性の強い代表的な癌です


なお、胃癌は遺伝しません。したがってここでは大腸癌だけ説明します

胃癌の原因はピロリ菌の感染です。これは家族内感染を起こします。したがって家族に胃癌の方がいる方はピロリ菌検査を受けるべきです。しかし、胃癌自体は遺伝性はありません。詳しくはこちらを・・・

大腸ポリープの見つかった方が最も多く持つ疑問は、「原因は遺伝か?」「生活習慣(酒、たばこ、肉食・・)か?」という点です

今まで、複数回大腸ポリープを切除した・・・・

子供にも遺伝するのだろうか? それともタバコだろうか?それなら禁煙すればいいし、息子に遺伝する心配もないが・・・

 

疫学的調査から大腸ポリープ・癌の約半分が遺伝性、半分は「生活習慣」によるものと予測されています

遺伝性大腸癌のうち、ごく一部(3%前後)は原因遺伝子も見つかっており、遺伝子診断も可能です。これはHNPCCと呼ばれています

 

HNPCCの遺伝子診断のために学会と厚生省共同でHPを運営しています(こちらです

注意!「遺伝子診断・遺伝子ドック」を売りにしている医療機関が最近増えています。しかし、この正しい検査は癌遺伝子について研究歴のある十分な知識を持った専門の医師しかできないものです。低レベルな医療機関での検査は、絶対に受けるべきではありません

 


では・・・HNPCC以外の遺伝子の見つかっていない「遺伝性の強い大腸癌」の診断はどうすればいいのでしょう

遺伝子が検査できない以上「100%確実な」ことは言えません。しかし、分子生物学の進歩で発癌のメカニズムが解明され、「ある程度の予測」は可能です。

さて・・・・下の図でAさんとBさんは、どちらが遺伝性でしょう?

Aさんは、1個だけ大きなポリープが見つかり、初期の癌でした Bさんは小さなポリープが多数見つかり全て良性でした

このような場合・・・Aさんは「非遺伝性」、Bさんは「遺伝性」と考えて、まず間違いありません

  1. 癌ができるには10~20の遺伝子に「突然変異」が生じる必要があります
  2. 我々の体内では「1日に数十億の細胞に突然変異が生じています」これは禁酒・禁煙をしていても、ほとんど同じです。つまり「なぜ癌ができるのか?」ではなく「どうして、こんなに癌は稀なのか?」の方が不思議なのです。
  3. 我々の体内には遺伝子の「突然変異」を修復する機能もそなわっています。これが、毎日数十億の変異を修正しているのです
  4. Aさんの場合は、何かの原因(酒、たばこ??)で腸の左側に修復する遺伝子にトラブルが起きたのです(多くは修復する遺伝子自体の突然変異です)。そのため10~20の遺伝子の「突然変異」が、この細胞に集中的に起きて・・・癌化まで至ったと考えられます
  5. 一方Bさんは「体質的に修復する機能が弱い」か「生まれつき、全身の細胞で5~10くらいの遺伝子が変異していた(両親からそのような遺伝子を受け継いだ)」のどちらかが考えられます。
  6. もちろん「Bさんは煙草、酒を大量に摂取したから多発した」という解釈も可能ですが、このような可能性は非常に低いでしょう。人間の「突然変異」を修復システムは非常に強力だからです (文責:本郷メデイカルクリニック 鈴木雄久)