DNAチップは内視鏡治療に革命を起こす

DNAチップ(あるいはDNAマイクロアレイ)という言葉が最近、マスコミによく登場します。この技術は内視鏡治療に大きな変革を起こす可能性があります


下の2枚の写真の患者さんは、病気を根治され元気なのですが、左の方は内視鏡で右の方は外科手術が施行されました。この違いは何なのでしょう?

数センチの巨大病変ですが内視鏡切除で根治しました。 数ミリの小病変ですが外科手術が施行されました

リンパ節転移の可能性が治療方針を決める


治療方針を決めるのは病変のサイズでは無く、「リンパ節転移」の可能性です。これが無ければ、どんな大きさでも内視鏡で根治可能であり、理論的には進行癌も可能です(参考:内視鏡的全層切除)しかしリンパ節転移に対しては内視鏡切除は「全くの無力」です。

では、「リンパ節転移」の可能性はどのように予測するか?なのですが、CTやMRIなど現在の画像診断では「微小リンパ節転移」は検出できません。過去に手術された症例の蓄積から「どのような内視鏡所見があればリンパ節転移の可能性があるか」について学会で専門医が「コンセサンス」を作り、これを基に「医師の経験と勘」で判断するのです。

上の右の写真の方の場合は「小さいが表面に虫が食ったような不整な陥没(蚕食)があり、表面模様に無構造な領域がある」ことから粘膜下層深く浸潤しており「リンパ節転移の可能性が5-10%前後あり」と予測されました。この写真を見れば専門医なら全員が「患者さんの命を救うためには外科手術が最も合理的である」と判断するでしょう。

「リンパ節転移の可能性が10%有る方」に外科手術を勧めるということは、逆に言えば90%の方には「不要な手術を勧めている」とも言えます。

あるいは裁判で物的証拠が無いが「容姿・振舞いなどの主観的印象が悪人のようなので」社会の安全のために有罪にするのと同じこととも言えます。

微小なリンパ節転移を100%の精度で予測できれば、現在よりも、はるかに多くの方が内視鏡治療だけで癌を根治できるはずなのです。

分子生物学者たちは癌の転移を重要研究課題にしてきました・・・・

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転移は偶然に起こるのでは無く、癌細胞の持つ特質で起こると考えられています。最も明解なのが皮膚癌です。皮膚癌は「基底細胞癌」と「悪性黒色腫」の二つがありますが、前者は相当大きくなっても転移は極めて稀ですが、後者は微小サイズでも全身に転移します。

「癌細胞がどのような特質があれば転移を起こすのか?」これは研究者にとって最も重要な課題でした。

今までの研究は以下のようなものです(括弧内の専門用語でWEBで検索すれば・・・・膨大な資料が見つかります)

癌細胞が周囲の結合組織を溶かして転移するらしい(用語:マトリックスプロテアーゼ)
癌細胞の運動能が高まると転移するらしい(用語:細胞骨格、RhoC)
癌細胞が細胞接着が無くなると転移するらしい(用語:Eカドヘリン)
癌細胞が中胚葉に分化すると転移するらしい(用語:EMT,Epithelial Mesenchymal Transition)
癌細胞が血管の壁を浸潤すると転移するらしい(用語:I-CAM,colonization)
癌細胞に幹細胞があると転移するらしい(用語:癌幹細胞)

細胞内の全遺伝子を調べてリンパ節転移の可能性を予測できないか?という研究が現在、注目されています

言葉では無理なので詳細は図で説明します

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私見

現在、多くの研究が精力的に行われており私は遅くとも5年以内には「革命的なブレークスルーがある」と予想します。従来、基礎医学者達は「研究費の制限」に悩まされてきましたが、この分野は巨大なビジネスチャンスがあるため現在、莫大な資本が投入されているからです。(文責:本郷メデイカルクリニック 鈴木雄久)